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COLUMN 2026/08/17

【後編】ドラマ『VIVANT』でわかるサイバー犯罪捜査官という仕事

コートと帽子姿の捜査官がルーペをかざしているイラスト。ルーペの中ではコードが拡大され、不審な1文字が赤く光っている。足元には追ってきた足跡が続き、背景はコードが降り注ぐサイバー空間

ドラマ『VIVANT』には、天才ハッカーと、その対極に立つサイバー犯罪捜査官が登場します。この捜査官という仕事は、物語の中だけのものなのでしょうか。

実はちゃんと存在する職業です。沖縄県警をはじめ、各地の警察が採用しています。

ネタバレにご注意ください

この記事では、ドラマ『VIVANT』シーズン1(第1話〜第10話)の内容に触れます。物語の結末と、放送中のシーズン2(第11話〜)の展開には触れていません。

前編では、天才ハッカー「ブルーウォーカー」と、それを追う東条 翔太(濱田 岳)を並べながら、ホワイトハッカーとクラッカーの違いを見ていきました。まだの方は【前編】ドラマ『VIVANT』でわかるホワイトハッカーとクラッカーの違いからどうぞ。


2人を分けたのは、技術力ではなかった

『VIVANT』は2023年にTBS系「日曜劇場」で放送され、2026年7月26日からシーズン2が放送されている作品です。

前編で見たのは、技術の高さでは説明できない2人の対比でした。

  • 太田 梨歩(飯沼 愛) — 商社の財務部で働きながら、脅迫されて「ブルーウォーカー」として犯行に加担することになった人物
  • 東条 翔太(濱田 岳) — 警視庁サイバー犯罪対策課に所属し、その足取りを追う側にいた人物

腕前で言えば、上だったのはブルーウォーカーのほうです。それでも2人を分けたのは、技術力ではありませんでした。何のために使ったのか、そして頼まれてやったのか勝手にやったのか。分かれ目はその2つです。

演じているのは濱田 岳さん。1988年生まれ、東京都の出身で、10歳のときに子役としてデビューしています。映画『ゴールデンスランバー』『永遠の0』、大河ドラマ『軍師官兵衛』など、幅広い作品に出てきた俳優です。

さて、ここからが後編の問いになります。東条のような仕事は、現実に存在するのでしょうか。


サイバー犯罪捜査官とはどんな仕事? 全国で約480人が働いている

結論から書きます。実在します。 しかも、何人が働いているのかまで公表されています。

警察庁の資料によれば、都道府県警察にはサイバー特別捜査官等として約480人が在籍しています。民間企業での経験や、情報通信技術の高度な資格を条件に採用された警察官等です。

警察庁のほうにも、技術系職員が約800人。情報技術の解析などを担う第一線で働いています。

サイバー犯罪捜査官の4つの仕事領域を示した図。デジタルフォレンジック、不正アクセスの追跡、国際連携、被害の未然防止

サイバー犯罪捜査官の仕事は、大きく4つに分かれる

  • デジタルフォレンジック — PCやスマホに残った記録を解析し、証拠として取り出す仕事
  • 不正アクセスの追跡 — 通信ログをたどり、どこから誰が侵入したのかを突き止めます
  • 国際連携 — 攻撃者が海外にいることも多く、各国の捜査機関と協力しながら進めていく領域
  • 被害の未然防止 — 攻撃の予兆をつかみ、広がる前に手を打ちます

つかまえた事件は1年で1万5,108件にのぼり、過去いちばん多い

令和7年のサイバー犯罪の検挙件数は1万5,108件で、過去最高を記録しました。

企業の業務を止めてしまうランサムウェアの被害報告は226件。長期間にわたって事業が止まってしまった例もあります。

証券口座への不正アクセスによる不正取引では、令和7年の不正売買金額が約7,408億円にのぼりました。

出典: 警察庁サイバー警察局「令和7年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」(2026年3月公表)

予算は66億円もあるのに、働く人が足りていない

令和7年4月には、警察庁サイバー特別捜査部に「特別対処課」が新しく置かれました。令和8年度の当初予算案でも、サイバー空間の脅威への対処に66億7,900万円が計上されています。

人手を増やし、組織を作り、予算をつけている。必要とされている分野だという事実が、数字にそのまま表れているわけです。


ドラマと現実は何が違う? 派手なハッキング対決はない

ドラマを観たあとで現実の仕事を調べると、思っていたのとは違う部分が見えてきます。

現実の捜査は、法律に基づく手続きで動きます。 場面によっては令状が必要になり、証拠の取り扱いにも厳格なルールがあります。データが改ざんされていないと証明できる形で保全しなければ、証拠として使えないのです。

そして、一人の判断では動きません。組織とチームで進めていく仕事になります。

もう一つ、はっきりさせておきたいことがあります。作中には「別班」という組織が出てきますが、東条はそこに属していません。

東条がいるのは警視庁サイバー犯罪対策課で、作中では公安部・外事第4課の野崎 守(阿部 寛)と組んで動きます。こちらは現実の警察組織に近い側になります。

一方の別班は、諜報機関を描いたフィクションです。派手な潜入や工作はそちらの物語であって、サイバー犯罪捜査の仕事とは別のものと考えてください。

実際の現場は、派手なハッキング対決ではありません。ログを1行ずつ確認していく、地道な積み重ねが中心です。

それでも、被害を止められるのはこの仕事だからこそ。地味に見える作業の先に、誰かの生活を守る結果があります。

守る側の仕事全体をもう少し知りたい人は、セキュリティエンジニアになるには?もあわせてどうぞ。


沖縄県警の募集要項を読んだら、働いた経験はいらなかった

ここで、東条の所属をもう一度見てみましょう。警視庁サイバー犯罪対策課でした。

警視庁は東京都の警察本部です。日本の警察は都道府県ごとに本部が置かれていて、東京だけが「警視庁」という名前になっています。ほかの46道府県は「○○県警察本部」。つまり東条は、東京都の警察官だったわけです。

ということは、同じ役割は他の県にもあることになります。

ここからが本題です。沖縄県警察も、サイバー犯罪捜査官を採用しています。

令和8年度の採用選考試験案内が、2026年7月31日に公開されました。受付は同年8月28日まで、第1次試験は10月5日という日程です。

この案内を読んでみると、高校生にとって大事なことが書かれています。

巡査で受けるなら、情報処理技術者試験に1つ受かればいい

採用の区分は、警部補・巡査部長・巡査の3つ。このうち巡査の受験資格が、次のようになっています。

  • 日本の国籍を有し、地方公務員法の欠格条項に該当しないこと
  • 昭和39年4月2日以降に生まれた者
  • 下の情報処理技術者試験のうち、1つ以上に合格していること

対象になる試験は11区分。基本情報技術者、応用情報技術者、ITストラテジスト、システムアーキテクト、プロジェクトマネージャ、ネットワークスペシャリスト、データベーススペシャリスト、エンベデッドシステムスペシャリスト、ITサービスマネージャ、システム監査技術者、情報処理安全確保支援士。

ここで気づいてほしい点があります。巡査の区分には、実務経験の要件がありません。

職歴が問われるのは、上の階級だけです。巡査部長なら大卒で職歴4年以上、警部補なら大卒で職歴7年以上。すでに社会で経験を積んだ人のための入口が、そちらになります。

つまり資格を1つ持っていれば、卒業してすぐ受験できる道があるということです。

沖縄県警サイバー犯罪捜査官の3つの採用区分を示した図。巡査は資格のみ、巡査部長と警部補は学歴と職歴が必要

法律で決められた条件があり、受けられない人もいる

受験資格の1つ目に「地方公務員法の欠格条項に該当しないこと」とありました。ここも読んでおきましょう。次のいずれかに当てはまる人は、そもそも受験できません。

  • 拘禁刑以上の刑に処せられ、その執行が終わっていない、または執行を受けることがなくなっていない人
  • 沖縄県職員として懲戒免職の処分を受け、その日から2年を経過していない人
  • 日本国憲法やその下に成立した政府を暴力で破壊することを主張する団体を結成した、または加入した人

なぜ、こんな条件があるのでしょうか。法律を執行する側に立つ仕事だからです。ルールを破った記録が残っている人に、ルールを守らせる役割は任せられません。

前編で「他人のアカウントやシステムに無断で入る行為は、興味本位であっても法律違反になる」と書きました。その一行は、ここに繋がっています。

軽い気持ちの一回が、こういう仕事への道を閉ざしてしまう。 技術がある人ほど、この線引きは自分のために覚えておいてください。

いちばん点数が高いのは、筆記ではなく面接だった

第1次試験は、次の3つで構成されています。

種目 配点 内容
専門試験 100点 情報処理に関する専門知識。情報処理技術者試験レベル2〜4程度。択一と記述で50問・2時間
作文試験 30点 思考力・文章構成力・表現力。600字以内・1時間
口述試験 120点 主として人物についての個別面接。1人25分程度

配点がいちばん大きいのは、専門試験ではなく口述試験です。 技術だけでは通らない、と要項そのものが語っています。

第2次試験では、適性検査・身体検査・身体測定に加えて体力検査があります。腕立て伏せ、反復横跳び、上体起こし、20mシャトルラン。視力の基準もあり、両眼とも裸眼0.6以上、または矯正1.0以上と定められています。

デスクに向かう仕事に見えて、警察官として採用される以上、体力も条件に入るわけです。

正直に書くと、採用されるのは「若干名」だけ

ここまで良い面を書いてきましたが、厳しい部分もあります。採用予定数は毎年「若干名」にとどまります。

要項には「最終合格者の数は、採用を辞退する者等の数を考慮して決定しますので、合格しても採用されないこともあります」とも書かれています。狭き門であることは、まちがいありません。

募集そのものが毎年あるとも限りません。受験を考えるなら、募集の有無を自分で追いかけ続ける必要があります。

この記事で紹介しているのは、令和8年度(2026年度実施)の内容です。
受付期間は2026年7月31日から8月28日まででした。次の年度の募集は、その都度あらためて公表されます。

受験を考えるときは、必ずその年の募集要項を確認してください。要件も日程も年度によって変わります。

出典: 沖縄県警察「令和8年度沖縄県警察官(サイバー犯罪捜査官)採用選考試験案内」(2026年7月31日)

条件は県ごとに違い、千葉は3年の経験、広島は月5万円の手当がつく

要件は都道府県ごとに違います。たとえば千葉県警察の特別捜査官は、対象となる資格に加えて「IT分野に関連する業務に従事していた期間が3年以上」という職歴要件があります。同じ職種名でも、条件は県によって別物なのです。

広島県警察のように、待遇で差をつけている県もあります。応用情報技術者試験以上の合格者には、採用の日から10年間、月額5万円の初任給調整手当。さらに採用区分によっては、サイバー防犯ボランティアの経験者に試験の加点を設けています。

資格や経験が、そのまま評価につながる世界だということです。

警察以外にも、守る側で働く場所はある

守る側で働く道は、警察だけではありません。民間のセキュリティ企業でインシデント対応やフォレンジック調査に携わる人もいます。企業内のCSIRT(攻撃を受けたときの対応チーム)という場所もあるでしょう。

民間で経験を積んでから、公的機関へ移る人もいます。順番は一つではありません。


サイバー犯罪捜査官になるには? 高校生から4ステップで近づける

高校生からサイバー犯罪捜査官までの道のりを示した4段階の図。今できること、学ぶ、資格を取る、採用選考に挑む

沖縄県警の要項を見たあとなら、道のりはかなりはっきりします。

⓪ 高校生の今からできることが、実際にある

まず知っておいてほしいのは、今から関われる入口がすでにあるということです。

学生向けのサイバーコンテストが、各地の都道府県警察によって開かれています。警察庁の資料にも「サイバー特別捜査官となり得るサイバーセキュリティ人材の裾野拡大」に取り組むと明記されました。

サイバー防犯ボランティアという活動もあります。全国で322団体・7,633人(令和7年12月末現在)が参加しており、構成員は学生の比率が高いのが特徴。

活動は3つです。インターネットの安全を伝える講習、街頭でのキャンペーンやチラシ配布、そして違法な情報を見つけて通報するサイバーパトロール。警察庁のページでは、大学だけでなく高校や高専が主体になっている団体も紹介されていました。

前に触れたとおり、この経験を採用試験で加点する県もあります。

大人になるのを待つ必要はありません。学生の今からでも出来ることがあります。

① 通信の仕組みとOS、ログの読み方から学ぶ

通信の仕組み、OS、ログの読み方。この3つが、あとから効いてくる土台になります。

第1次試験の専門試験が「情報処理技術者試験レベル2〜4程度」である以上、ここで学ぶ内容がそのまま試験範囲になるわけです。

② 在学中に資格を取れば、受験できるようになる

ここが受験資格そのものになります。

まずはITパスポート(国家資格)で全体像をつかみ、基本情報技術者へ。沖縄県警の巡査区分は、この基本情報技術者からが対象です。さらに上を目指すなら、ネットワークスペシャリスト試験などの高度試験が待っています。

③ 働いた経験がなくても、採用試験を受けられる

資格を取れば、受験できます。実務経験を待つ必要はありません。

ただし配点がいちばん重いのは口述試験でした。技術を学びながら、人と話す力もあわせて育てておく。そこが分かれ目になりそうです。

体力検査があることも、早めに知っておいて損はないでしょう。

④ 会社で経験を積んでから挑む、という道もある

民間のIT企業やセキュリティ企業で経験を積み、そのうえで巡査部長や警部補の区分に挑む道もあります。こちらは職歴が要件になるぶん、時間はかかります。

公務員を目指していたけれど、ITの道に進んだ先輩の話もあります。ITは「人と向き合う仕事」だった。公務員志望からプログラマーへをどうぞ。


沖縄で学んで沖縄で守る道は、那覇日経ビジネス専門学校から始まる

サイバー犯罪捜査を数字で示した図。サイバー特別捜査官 約480人、警察庁技術系職員 約800人、令和7年サイバー犯罪検挙 1万5,108件

沖縄県警の受験資格は、情報処理技術者試験の合格でした。その資格を取るための土台は、那覇日経ビジネス専門学校のネットワークスペシャリスト科で学べます。

カリキュラムを監修しているのは、IIJ(株式会社インターネットイニシアティブ)。日本のインターネットを支えてきた企業です。3年制・20名の少人数制で、じっくり手を動かしながら進んでいきます。

沖縄にいながら、日本トップクラスの環境で学ぶ。資格を取る。そして地元の県警が、その資格を持つ人を探している。

沖縄で学んで、沖縄で守る。 その道は、想像していたよりずっと近いところにあります。

実際にどんな授業なのかは、文字で読むより見たほうが早いかもしれません。オープンキャンパスで確かめてみませんか。

進路の悩みは、一人で抱えなくて大丈夫です。NIKKEI IT LabのLINEから、気軽に相談してください。


出典

採用の要件は都道府県と年度によって異なります。受験を考えるときは、必ず最新の募集要項を確認してください。

アキ先輩
ライター

アキ先輩

Web制作会社にエンジニアとして入社後、カスタマーサクセス、メディアグロース、広告運用、CTO/CMO、会社経営まで——転職10社・7職種を経験したIT業界の"なんでも屋"。メガベンチャーから、0→1のスタートアップ、スモールビジネスの会社など様々なフェイズの会社を経験。エンジニアとマーケターの両方の視点から、IT業界のリアルな魅力をわかりやすくお伝えします!